幻惑な夜
その安堵感は、何事もなく無事に堕胎手術が成功したと言うものではない。

…解放された。

そう、解放からの安堵感。
それ以外何ものでもない。

ふと、寝ている恭子の目の端に、光るものが見えた気がした。

泣いてるのか?

俺の心を覗いて泣いている?

お前が俺に、心配しなくていい大丈夫、大丈夫よ堕ろすから…。

そう言った時、俺は何度もゴメンゴメンと謝ったけど、あれは本心じゃないって知ってたか?

ゴメンじゃなくて、ありがとうが正しい…。

子供とか家族とか責任とか、背負い込まないで良かった…。

これが俺の本心って、知ってたか?

…ホッとしている。
心底ホッとしている。

子供を堕ろしてくれて、ありがとうって思っている…。

後悔など一つもない…。

腐っているに違いない…。

きっと冷蔵庫の中で何年も放置されていた牛乳のように、俺の心の中はドロドロに発酵して、ツンっとするほどに腐りきっているに違いない…。



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