幻惑な夜
俺は親指で、恭子の目の端を擦って涙を拭う。

恭子の体がもぞもぞと動いたのはそんな時だ。

俺は動きを感じた恭子の足に目がいく。

ラブホテルにある安っぽいバスロープのような着衣。
その裾からのぞく、白くキレイな太腿。

もぞもぞとその動きは止まらない。

右足はとくに激しく、膝を上げたり下げたりしている。

俺は右手で恭子のその右足の、露になった太腿をさする。

やさしく、五本の指先を使って丁寧にだ。
感じさせるかのように…。

俺は恭子の口から、押し殺した吐息がもれるのを想像する。

泣きじゃくる子供が、頭を撫でられ落ち着きと安心を得ていくように、恭子の右足もゆっくりと落ち着きを取り戻していく。

俺はそれでも、恭子の太腿をさすり続けるのをやめない。

恭子が麻酔から覚めて、目を開けるまでさすってあげていようと思った。

この罪に対する懺悔か、恭子の体の痛みへの慰めなのか…。
俺にもよくは分からない。


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