幻惑な夜
NBAを降ろしてからまっすぐ、俺は緩やかな坂道を下って石神井川に突き当たる道を左に曲がるはずだった。

終電間際の池袋で、客を乗せるには調度いい時間。

左に曲がって少し走れば中仙道にぶつかる。
池袋まではわけがない…はずだった。

はずだったんだが、突き当たりまで来て一気に視界が開けた時、俺はブレーキを踏んだままそこから動けなくなってしまった。

…ここだったか?
…この道だったか?

そう思いを巡らす俺の目の前には、道路を挟んで酒屋と美容院とが、昔と何ら変わらずに存在していた。

ディズニーのキャラクターと同じ名前の美容院…。
よくアルバイト雑誌を買った酒屋…。

その二つの店に挟まれて、グレーの三階建てのマンションが建っている。

そのマンションもまた、昔の俺の記憶と何ら変わる事なく建っていた…。



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