幻惑な夜
次が俺の番で、タクシー乗り場で待っている客が、いち、にぃ、さん、しぃ、の…ご、と言う前に俺の口から出たのはチェッと言う舌打ちだ。

6番目に並んでいる男がこっちを見ていた。

こっちを見て俺と同じく舌打ちしたように見えた男は、多分さっき俺のタクシーの窓ガラスを叩いた男だ。

多分で曖昧なのは、窓から覗き込んだその男の顔と、俺が勝手に想い描いていたその男の全体像のイメージとがうまく一致しなかったからだ。

男は随分と背が高かった。

1メートル90はありそうだ。

前に並んでいる男は俺と同じくらい、70ちょいってとこか。

それより、頭一つ大きい。

ルームミラーに、ニヤけた自分の顔が写っている。

どう言う訳だか俺は、その男とアメリカNBAにいる中国人選手とがダブったのだ。

「なんつったけな、あいつ…」

顔は出て来るが、名前が出てこない。


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