幻惑な夜
「…警察の方には、はい、まだ通報しておりません。こちらとしても…奥さんも反省しているようですので…ええ、それで大変ご足労なんですが、こちらのスーパーまでおいでいただけないかと…、はい…そうですか、それじゃよろしくお願いいたします…」

俺は電話を切ってからしばらく、まさに放心状態に陥った。

意味が分からない…。
恭子が万引き?

いずれにせよ、そのスーパーに行ってみない事には何も分からない…。

俺はかなり動揺していた。

出掛けるために俺はトレーナーに着替えたが、つい後ろ前反対に着てしまった。

俺はトレーナーを着替え直すが、見た目はひどいものだった。

トレーナーの色はグレーだが、色褪せてしまい、白に限りなく近いグレーになっている。

襟首のすぐ下には、何かをこぼした跡だろう、薄黒く朝鮮半島のような染みを作っていた。

…みすぼらしい。



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