幻惑な夜
こないだの中絶手術から…俺は指折り数えて、10カ月かと小さく呟く。

一年で二度の妊娠…。

どうする?
ほんとに恭子がまた妊娠しているとしたら、俺はどうする?

すでに答えは出ているはずなのに…。
そう自分に問い掛ければ、俺の罪は消えてくれるのだろうか?

…中絶。

恭子もきっと、俺の口から出るであろうその言葉を分かっていたに違いない。

だから俺に何も言わなかったのだ。

言っても無駄。
そう思っているに違いない。

そう思ってくれて、妊娠した事を俺に告げずにいてくれたら…。

恭子が自分で処理してくれたら…。

ホッとするのか俺は?

まったくもって、まったくだな…。
ほんとまったくな男だ、俺ってやつは。

「いいよ、もう! 何か、すんごい頭にくるんだけどぉ」

女の声がドアの向こうから聞こえる。


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