幻惑な夜
俺は橋の欄干に右肘を付きながら、石神井川に唾を垂らす。

指に挟んだタバコを、最後に思いっきり吸ってからピンっと弾く。

タバコは弧を描いて、暗い石神井川へと吸い込まれていった。

「何だってんだ、いったい…」

俺はボソッと呟くと、欄干の上に置いておいた缶コーヒーを一口飲む。

それにしても何だって言うのだろう。

立て続けに嫌な夢を見た。
二本立てかよ。

思い出したくない過去…。
消せるなら消してしまいたい黒い過去…。

この街を離れて12年ちょい…。
俺の頭の中では、この街はすでに消えている。

それが今日に限って、いまいましくも夢の中でとは言え浮かび上がってくるとは。

見覚えのある街並みから、揺り起こされる記憶。

来たくなかった。
恨むぞNBA。

俺は缶コーヒーをグイッと飲み干すと、その空き缶を石神井川に投げ捨てた。




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