幻惑な夜
ついさっき乗せた客が酔っぱらいで、後ろでゲーゲー吐きまくったとしても、好きな曲に体を浸せばOH、YEAHだ。

俺の乗ってるタクシーには当然だがCDやカセットの類いは付いていない。

最近じゃ、カーナビなんぞ付いているタクシーも随分と見掛けるが、リッチじゃない俺の会社のタクシーにそんな物が付いている訳がない。

ラジオだけ。
FMの入りが異常に悪いラジオだけだ。

だから俺は、助手席にいつもCDラジカセを置いている。

客を乗せている時には当然使えないが、客待ちや街を流している時は、いつも何かしらのCDをかけている。

大宮からの帰り道、何の曲を聞きながら流して来ようか。

そう考えながら俺は、すでにジェットの『アー・ユー・ゴナ・ビー・マイ・ガール』を口ずさんでいる。

ちょっと古いがカートコバーンでニルウ゛ァーナ。
さらに古目でブライアン・アダムスのしゃがれ声も捨てがたい。

80年代、MTV時代の俺は思わずニヤけそうになる。


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