幻惑な夜
ハァーっと溜め息を、俺はタバコの煙と一緒に吐き出す。

俺は目をつぶる。

さっき犬を連れていた女と、俺の知っている恭子の顔をシンクロさせて見る。

ブレる。

もう一度やって見るが、やっぱりブレる。

ブレるがその差は微妙だ。

俺の知っている恭子の顔は、12年も前の恭子の顔で、それを差し引いてもやっぱり似ていると思う。

カチっとはいかないが、ゆんわりとシンクロする感じだ。

さっきの女がほんとに恭子だとしたら、12年に…俺が恭子と一緒にこの街で暮らしてたのが2年だから…14年?

少なくても14年もこの街に住み続けていた事になる。

グレーのマンション。
そこから出て来たのを俺は見た。

6畳のワンルーム。
ユニットバスの太陽の陽が、一日中当たる事のない部屋に14年…。



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