幻惑な夜
俺はさっき見た夢の続きを思い出してみる。

スーパーアザミへ恭子を引き取りに行ってから、何日かして俺はマンションを出た。

いや、出たと言う言い方は違う。

…逃げた。

それが正しい。

恭子はやっぱりスーパーで万引きをしていて、その日こそ落ち込んでいたが、明くる日からは何もなかったかのように仕事に出掛けて行った。

俺との接し方も普通で、いつもと変わる事はなかった。

浴槽で見付けた妊娠検査薬の事も俺は聞けずにいて、恭子の方もその事には何も触れてはこなかった。

何も聞けない。
何も聞かれないと言う空気の重さはそうとうなものだった。

聞けないと言うその裏には、恭子が再び妊娠したと言う事実を知る怖さがあった。

…知ったとしても、俺の口から出る言葉はすでに決まっている。

恭子もそれが分かっている。
だから何も俺に言わない。
そんな気がした。


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