幻惑な夜
若いから許される。

若いから許しを請うのは、この先の人生いくらでもある。

まだまだ俺は若い…。

そんな気持ちを全面に出す事によって、俺は恭子への罪深さを曖昧にしていった…。

そんな過去の罪に思い耽っていた俺は、ふと、我に返った。

声がしたからだ。

泣き声?

俺は見つめていた川面から視線を上げ、辺りを見回した。

誰もいない。

だが、明らかに泣き声は俺のいる橋の方へと近付いて来る。

赤ん坊の泣き声だ。

それに混じって男のあやす声も聞こえてきた。

俺は赤ん坊の泣き声がする方を、ジッと見つめた。

さっき俺も通って来た、この橋に続く曲がり角だ。

やがて男が角を曲がって現われた。
泣きじゃくる赤ん坊を抱えている。

男はまっすぐ橋の上、俺の方に向かって歩いて来る。

男がチラッと俺の顔を見た。

目が合った俺は、あれ? と感じながらも視線を宙に泳がす。


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