幻惑な夜
「どこにいんだよ。いいから早く帰って来いって…あん? オムツ? だから知らないっての!」

赤ん坊の泣き声もそうとうなものだが、携帯で話している金髪の声もそうとうなものだ。

周りの住人にとっては、ほんといい迷惑だろう。

この時間、すでに寝ている人にとってはたまらない。

橋を渡ってすぐの角に三階建の家がある。

さっき三階の窓に明かりがついた。

赤ん坊の泣き声と、金髪の携帯で話す怒鳴り混じりの声に何事かと思ったのかもしれない。

窓が開いて、いい加減にしろ! 何時だと思ってるんだ! 金髪が、そう怒鳴られたりするのを俺は想像する。

俺はニヤリと、口の端を上げる。

前から自転車が走って来るのが見える。

ゆっくりと、ゆっくりとコインランドリーの前を通過。

運転しているのは若い男で、タバコを口に咥えている。

橋にさしかかり、俺のタクシーの横をゆったりと通り過ぎて行く。


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