幻惑な夜
俺はバックミラーとルームミラーを交互に見て、その中の自転車を追う。

金髪の傍らを自転車が通り過ぎようとしている。

自転車の若い男が金髪の顔を見ている。

金髪が携帯で話すのをやめ、自転車の男を見た。

すれ違いざま、お互いに目と目が合う。

赤ん坊が、何故かその瞬間一瞬泣きやんだ。

静寂。

今まで騒がしさが耳に馴れていたせいか、その静けさはやたら際立つ。

自転車の若い男は金髪を通り過ぎても、なお後ろを向きながら金髪を見ている。

赤ん坊が再び泣き始めた。

金髪も携帯での話しを中断したまま、自転車の若い男を見続けている。

お互いに、あぁん? って感じだ。

俺はルームミラーの二人を見続けながら、さらにニヤリだ。

…いいぞ、ヤレヤレ。

俺は野次る。
小さく声に出してだ。


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