幻惑な夜
運転している俺の顔の横に、スッと何かが動く気配を感じる。

俺は「おおっ!」と、思わず亀のように首を引っ込めおののいた。

15度くらい首を左に向け。つけているコンタクトレンズがズレるんじゃないかと言うくらい黒目を左端に寄せ、それを伺う。

…おい。

俺は口に出さずに、頭の中でつっこむ。

俺の顔の横で動いたのは、何でもない後ろに座っているNBAの右腕だった。

見えない何かに捧げるかのように、携帯を掴んでいる右腕を上にかざしている。

それから「よっ」と、言葉になるかならないかの音を発っし、携帯のボタンを押した。

「送信」

今度ははっきりした言葉でそう呟くと、NBAはドサッとシートにもたれ掛かった。

…飛ぶから、携帯そんなに高く掲げなくても、ちゃんと電波飛ぶから。

俺はあからさまに、NBAが気付くようにルームミラーをゆっくりとずらす。

NBAがジーっと見つめているのを俺は後頭部で感じる。


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