幻惑な夜
この先でまた工事でもしてるのだろう。

目白通りから中仙道、環七に入ってからはアクセルを踏んでいる時間よりも、ブレーキを踏んでいる時間の方が長い。

信号が黄色に変わる。

俺の隣り、右車線にいる2トン車は加速して渡り切る方を選んだが、俺はやめた。

渡り切った目の前、二車線全てが赤のブレーキランプで埋め尽くされている。

変わりやしない。

信号一回分、何も変わりやしない。

俺はギアをニュートラルに入れ、サイドブレーキを引く。

ブレーキから足をずらし、ふーっと言う息と一緒に全身の力を吐き捨てる。

俺はシートにもたれかかり、ほんの一瞬の休息に身を委ねる。

タバコが吸いたい…。

隣りで白いベンツが一緒に信号待ちをしている。

運転しているのは女だ。

左ハンドルだから、俺との距離が異常に近い。
手を伸ばせば肩でも組めそうな感じだ。

俺がタバコを無性にに吸いたくなったのは、その女がタバコを吸っていたせいかもしれない。


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