幻惑な夜
キンッ、キンッ、と言う心地よい金属音が後ろから聞こえる。

ルームミラーで後ろを伺うと、NBAが手元にジッポーを握っていた。

キンッ、キンッと、ジッポーの蓋を開けたり閉めたりと繰り返している。

もしかしてこいつも、ベンツの女がタバコを吸っているのを見てタバコが吸いたくなった?

フッと俺が思わず鼻で笑った時、ベンツの女がチラッとこっちを見た。

俺は息を止める。

目を逸らすタイミングを逃してしまい、2、3秒だが俺と女は見つめ合うような形になってしまう。

…負け。

先に目を逸らしたのは俺の方だった。

その時俺は目の端で、赤く光る女の唇が微かに緩むのをとらえた。

笑った?

そう思った時、後ろに座っているNBAがボソっと何かを呟いた。

…いや、笑った?

俺はルームミラーに目を向けるが、写っているのは指先でいじくっているジッポーだ。

さっきルームミラーをずらしたのを俺は嘆いた。


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