めざせクリスマス
彼は、三十二歳で出版社に勤務していて、明日締め切りの企画書をさっきまで必死になって書いていたのだという。



会社は、人の邪魔が入ってはかどらないし、家は、テレビなど誘惑が多く、誘惑に負けてしまいそうだったので、コーヒーショップで書いていたらしい。
 


そして、独身で高円寺に住んでいるとも言っていた。
 


「突然何も言わずにここに連れて来てしまい、ごめんなさい。」とも言っていた。



そして、その理由はこういうものだった。
 



「俺の気のせいだったらごめんなさい。さっきの店で、俺のことずっと見てなかった?


別に初めは気にならなかったんだ。


髪の毛ぼさぼさだし、店の中だとは言え、まだ春なのにTシャツだから、人には見られていたから、でもパソコンから目を離すたびに、あなたと目が合った気がして、どんどん気になってきたんだ。



たまに、パソコンから顔を上げずに目線だけであなたを見たりすると、俺の方を見て微笑んでるし、その顔がたまらなく俺は愛おしく感じたりしちゃって、どんどんあなたとの何かきっかけが欲しくなってたんだ。



だから、あなたが帰るときに、僕のテーブルの横を通ったから、無意識に腕を掴んでいた。



一瞬、掴んだはいいけど、どうしようと悩んだんけど、あなたの意見を聞いて断られたりするの怖くて、無言でここまで連れてきちゃいました。



ここまで来るのも、ここにいるのも正直、自分でもわからなくて不安なんです。



でも、あなたと付き合いたい。



お互いのことは何も知らないけれど、これからいろんなことを知っていきたいんです。」


と、素直に気持ちを彼は話してくれた。




そんな真っ直ぐな彼に私も、今の気持ちを正直に話した。
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