恋のコーチは期間限定
 アパートに着くと当たり前だけど手は離された。
 それを寂しく思いながらアパートにお邪魔する。

「スーツどうする?
 似合ってるけどシワになっちゃうよね。
 ハンガー持って来なきゃ。」

「もう一回言ってください。」

「え?シワになっちゃう?」

「そうじゃなくて。」

「似合ってる?」

「疑問形じゃなくて。」

「もうなんなの?」

 クスクス笑う美希さんにわざとふてくされた声を出した。

「困ってそうな美希さんを見かけて急いでスーツに着替えに行ったんです。
 相手の男がスーツだったからTシャツとジーンズじゃナメられると思って。」

「そうだったの?わざわざありがとう。」

 微笑んだ美希さんが俺にとっての爆弾を落とした。

「すごくかっこよかったよ。
 助かっちゃった。」

「う、うん。なら良かったです。」

 ハンガーを探しに行った美希さんに見つからないように顔を手で扇ぐ。

 いつも可愛いとしか言わないくせに不意打ちで……まずい、顔がニヤけて……。

 思わずしゃがみこんで呟いた。

「大人の余裕……大人の余裕………我慢…。」

 ため息混じりに「俺、こんな奴だったっけ」と嘲笑した。

 




< 100 / 253 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop