恋のコーチは期間限定
 どこをどう歩いて帰ってきたのか。
 たくさん歩いたみたいで足は棒みたいになっていて笑えてしまう。
 何にショックだというの?

 アパートの階段を上がるとドアの前に人影があった。

「蒼葉くん………。」

 私の声に顔をこちらへ向けた彼は静かに口を開いた。

「なんで連絡もなく練習に来なかった?」

「それは、だって……。」

「昨日は確かに俺も態度わる……。」

「私は!
 私は呑気な学生と違って責任ある社会人なの。
 連絡を入れれなかったのは悪かったけど仕事で行けない時だってあるわ。」

 もうダメだった。
 セフレ候補って思われてることも、私以外の友達の前では年相応な顔で笑うことも、何もかもが、もう………。

 ガンッ。

 柵を思いっきり蹴った彼はひどく失望した顔をしていた。

「分かった。
 来週から旅行だから来週いっぱい練習は休みで。」

 私の横を通り過ぎて行く彼に私は崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込んだ。
 振り返ることもなく階段を降りる彼の足音を背中で聞いて涙が止まらなかった。






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