恋のコーチは期間限定
 そしていたずらっぽくこう言った。

「屈んだ方がいい?」

 その言葉が何を意味するのか、いたずらっぽい顔の蒼から容易に想像がついた。

「…………今?」

「今。
 帰ってからより今が良くなったの。
 ダメ?」

「………いえ。今でいいです。」

「なんで美希さんが敬語?」

 苦笑した蒼の方がなんだか大人っぽくてズルイ。

 軽く屈んでくれた彼に背伸びをして顔を近づけた。

 ドキドキし過ぎて、微かに唇と唇が触れただけでも心臓がバクバク音を立てる。
 とてもじゃないけどそれ以上は触れられなかった。

「可愛いんだから。」

 吐息がかかるほどの距離でそう言われて引き寄せられた。
 甘い口づけを交わして、引かれた手を離された。

「美希さん。
 そのとろけそうな顔が直ってからこっちに来てくださいね。
 それまではここで休んでて。」

 ドアを開けた彼が振り返って付け加えた。

「これはもう少し貸しておいて。
 お守り。」

 彼は胸ポケットのスカーフの端を手にしてスカーフにキスをしてみせた。
 そして今度こそドアは閉められた。

 お守りなんて必要ないでしょ………。

 鏡を見れば真っ赤な顔の自分が映っていた。







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