恋のコーチは期間限定
「それは……。」

 言い淀む蒼が憎らしくて八つ当たり気味に言った。

「最初に蒼がコーチの間って言うから。」

「コーチの間、恋人にってやつ?
 それは……。」

「それは、その時は遊びだった?」

「違っ。」

 蒼は短く否定してから手元に引き寄せたスポーツバッグから何かを取り出した。
 それは前に見かけた封筒だった。

 私に封筒を渡すと話し始めた。
 それは少し昔の話。

「高校の時。俺、テニス上手くて。」

「自分で言うの?」

 自信家にも程があるよ。

 あぁ……でも。
 ピアノの一件で彼のすごさを垣間見た。

 そのことを忘れてしまうくらいに普段の彼はすごさを微塵も感じさせなくて……。

 私の突っ込みがハマったみたいで、蒼はお腹をかかえて笑っている。
 そしてひとしきり笑うと涙を拭きながら続きを話した。

「だって実際に誰も相手にならなくてナメてたし。
 やってもどうせ勝てないって決めつけた対戦相手が逃げて不戦勝ってのもあった。」

「すごいね。」

 けれど蒼は自慢げでもなければ嬉しそうでもなかった。
 続きを話す蒼はどこか寂しそうだった。






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