恋のコーチは期間限定
 しばらく抱き締めた蒼は回していた腕を緩めて、私が握り締めたままだった封筒を見つめた。

「その手紙は高校の頃に会えたら渡そうっていつも持ち歩いてた。
 結局、三年間会えなかったけど。
 そのお陰でテニスは続けられたよ。」

 それは後輩が卒業して応援に行くことも無くなったから。

 よくよく考えれば大会には選ばれた選手のみがいける。
 後輩は上手い方だったけれど出場したのは最後の夏の大会だ。

 蒼はその大会に1年の頃から出場していたのだから『俺テニス上手くて』は傲慢な態度ってわけでもないのかもしれない。

 やっぱり、彼は望めばなんでも手に入る人………。

「私は………。
 蒼が……蒼は本当に私でいいのかなって思い悩む時があるの。」

 今もそう。
 近くに居過ぎて忘れそうになるけれど、蒼が私とは違う世界の人なんだって感じれば感じるほど………。

「何を言って………。」

 寂しそうな顔をした蒼にこちらの胸が苦しくなって目を伏せた。

「だって蒼はまたまだこれから未来がある人だから。
 それにかなりの年上で……いとこの子におばさんってからかわれるくらい。」

「そんなことない………。
 アイツ今度会ったらしばく。 」

 ムキになる蒼に今度はこちらが吹き出した。

 もう。こんな風だから忘れちゃうんだよ。
 蒼が本当はすごい人なんだって。

「笑い事じゃないでしょ?美希さん。」

 何故か私が怒られてクスクス笑った。





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