恋のコーチは期間限定
「美希さんからのサーブでいいよ。」

 良かれと思って言った言葉が美希さんにはカチンと来たみたいだ。
 最初にここのテニスコートで見かけた時みたいに誰も寄せ付けない凛とした顔をした。

 そしてラットをコート上に立てて言った。

「ウィッチ?」

「……ウィッチやるんだ。」

 笑いが漏れそうになるのをグッと堪えた。
 美希さんは至って真剣だ。
 俺も真剣に応えないと。

 ウィッチはラケットを立てた人が「ウィッチ?(どっち?)」と聞き、言われた方が『アップorダウン』のどちらかを選ぶ。

 その後にラケットを回転させて手を離し、グリップエンドのマークが上か下かでサーブやどちらのコートにするのかを決められる権利を得られる。

「じゃアップで。」

 回転したラケットはカランと音を立ててマークが上向きになって止まった。

「先攻。」

 譲ろうと思っていたサーブ権をもらった。
 ここまでされて譲っては男が廃る。

 サーブの構えに入ると俺も気持ちが入った。
 無闇に手加減は出来ない。
 あいにく俺も負けず嫌いだ。


「ザ、ベストオブ、3セットマッチ。
 高坂。トゥサーブ、プレイ!」

 セルフで審判役までするとトスを投げる。
 思いっきり体を弓なりにして打ち込んだ。

「イン。」

 微動だに出来なかった美希さんがため息を漏らしながら次のレシーブする場所へ移動した。

「15ー0」

 こんなやり取りがあと数回続いた。






< 207 / 253 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop