恋のコーチは期間限定
 前を歩く副社長の後ろを離れて歩く。
 美希さんは俺に気を遣って声を掛けた。

「私は平気よ?
 蒼は……大丈夫なの?」

 こんな時に強がって……美希さんらしいや。
 だから俺も少しだけ年下っぽい返事をする。

「うん。美希さんがいてくれるなら。」

 これは本当かもしれないな。
 美希さんがいれば俺は何倍も強くなれるから。

 煌びやかな装飾が施された店内は『福』の字が逆さに額に飾られている。

 円卓に座った男に座るように勧められた。
 どうやら店構えからして高級中華料理店のようだ。

「何か食べたい物……と聞いても無駄そうですね。
 適当にコースを頼んでおきましょう。
 料理に罪はないんです。
 美味しく食べてくれるといいのですが。」

 形ばかりの気遣いを見せた副社長は親しげに微笑んだ。
 そして料理を注文するのと同じトーンで話し始めた。

「新しい会社でも始めようと思ってます。」








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