恋のコーチは期間限定
「まだまだやらなきゃいかないことが……。」

 だから俺は自分がやれるだけのことを精一杯もがく。
 こんな感覚は初めてで……いや、美希さんのことでもがいていた頃と同じなのかもな。

「ここまでやる気になってくれるとは嬉しい誤算です。
 しかし先は長い。
 気長にやりましょう。」

「……そうですね。」

 言葉に甘えて帰り支度をしながら雑談をする。

「もっと俺には表面的な仕事をさせるのかと思っていました。」

 彼を認めるようになってから徐々に彼へは敬語になった。
 共同経営者にしてもらえてはいるが、完全に彼が俺の上司だし、何より俺の遥か上をいく彼に敬意を払わない方がどうかしてる。

「あそこまで君のお姫様に言われたら……ねぇ?」

「は?何を言って………。」

「あなた達を見てると恋愛も悪くないかなって思えてきますよ。」

 柔らかい笑みを浮かべた彼は「お疲れ様」と口にした。

「お疲れ…様です。」

 質問の答えをもらえないと悟った俺は踵を返し、まだ小さな事務所を後にした。

 数年後には数多くの社員を抱えることになるだろう。

 彼はトップに立つ側の人間だ。
 俺は……その頃には彼の隣で肩を並べて立っていられるだろうか。










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