恋のコーチは期間限定
 そこでふと気付いた。

 テニスは一人でコートを借りて練習するものじゃない。
 私は仕方なくサーブだけでもと昨日は来たけれど、普通なら誰かと来る。

 ラリーしたり、打ち合わないと練習にならないからだ。
 初心者なら壁打ちもありだけど彼ほどの人が壁打ちの為に来ないだろう。

 私に話しかけて来た時は一人だった彼も確か最初は誰かと練習をしていた。

 彼……蒼葉くんはコーチなんてしてていいのだろうか。
 練習できる練習相手もいるのに。

 もう一度、彼を見る。

 したたり落ちる汗を上げた腕の肩で拭く姿は爽やかで、昨日も同じ仕草をしていたはずなのにその仕草に男らしさを感じた。

 私の視線に気づいたのか、振り向いて笑顔になった蒼葉くんが手を上げた。

 ………気のせいよね。
 やっぱり可愛いもの。




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