恋のコーチは期間限定
「グリップ。覚えるんでしょ?」

 私を見て微笑む蒼葉くんが意地悪な笑みを浮かべている気がするのは気のせいだろうか。

「う、うん。そうね。」

 コートに出てみても蒼葉くんとの距離がおかしい。
 昨日、少なくとも飲みに行くまでは程よい距離感が心地良かったのに。

 私を後ろから抱き締めるように覆い被さって両手を握られた。

 4面あるコートに今は私達以外に誰もいなくても更衣室のある事務所の方には管理しているおじいちゃんがいる。

 見てるわけないとは思うけど………。
 そんなこと関係なくやっぱりおかしい!

「ほら。こうやって持って。」

 耳元で囁くように言われ、ビクッと体を揺らして体を固くさせる。

 昨日も感じた蒼葉くんの汗のにおいが全然嫌じゃない。
 それさえも………。

「あ、あのさ。
 こうやって教える必要ある?」

 おかしいでしょ。この距離!

「そう?
 美希さんって反応が可愛いよね。」

「可愛いとかじゃなくて!」

 距離感がおかしいだけ!

 いつの間にか敬語も無くなっている。

「だって、もうテニスどころじゃないんじゃない?」

「そういうわけじゃ……。」

 抱き締めるように……だったのが、完全に包まれるように抱き締められて心臓が壊れそうなほどに音を立てた。

 どうして急に……ついさっきまでは普通だったじゃない。

「……っていうか、俺がそうなんだけど。」

「え……。」

 首すじにキスをされて心臓は悲鳴を上げた。





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