恋のコーチは期間限定
「やりません？チェス。」

　片付けが終わる頃にそう誘われた。

　チェス……かぁ。
　難しそうだなぁと思うのに、彼は返事を聞く前に用意し始めている。

　まぁ見るだけなら。
　そんな風に思いながら、彼の後に続いた。

　木製のボードと駒が何種類かあるものがテーブルの上に出されていた。

　一緒に置かれていた説明書を手にして駒を眺めながら私に出来るかなぁと頭を悩ませた。

「あの……言いにくいんですけど。」

「何？」

「汗がずっと気持ち悪くて。
　シャワー浴びてきていいですか？」

「シャワー浴びて……。」

　彼の言葉を復唱しながら駒を持つ手が止まった。
　すると彼は慌てたように付け加えた。

「変な意味じゃないんです。
　本当に浴びたいだけで。
　あの……行ってきます。」

　言い訳をしながらお風呂場らしきところへ彼は消えていった。
　その姿に何故だか笑えてしまった。

　私はテニスをしないままここに来ちゃったけれど、私にコーチをしてくれる前に蒼葉くんは友達とテニスをしているらしい。

　それは帰ってすぐにでも入りたかったかもしれない。

　私への気遣いだったのかな。

　変な意味に取られないように言い出すタイミングを見計らって。
　彼なりに昨日の行動を反省しているらしいのが伝わってそれを可愛らしく思った。









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