恋のコーチは期間限定
「チェック。」

「え、嘘。また?」

『チェックメイト』つまり自分はキングを取ったと高らかに宣言する前に『チェック』次の手でチェックメイトしますよ。という警告のようなものがある。

 いきなり襲撃するみたいに『チェックメイト』したりしない。
 次に『チェックメイト』するけどいいですか?とお伺いを立てて逃げる隙を与えてくれる。

 チェスをあまり知らなかったけど紳士が遊ぶゲームにふさわしいルールだと思った。

「もう遅くなってしまったので、このくらいにしておきましょう。」

 駒をボードから下ろす彼に「今、何時?」と聞くと「日にちが変わったところです」と返ってきた。

「終電……。」

 まだ今行けば間に合うくらいだ。

 しかし行こうとするその腕をつかまれてドキリとする。

「ここから会社は遠いですか?」

「……むしろ近いけど。」

「じゃ泊まってくださって構いません。」

「でも………。」

 さすがに考えなしの私でもそれはちょっと考えてしまう。



< 62 / 253 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop