恋のコーチは期間限定
「グリップ。」

「え?」

 彼はネット状のドアになっているところから一旦外で出てからこちら側のドアを開けてコート内に入ってきた。

「ラケットをガットが見えないように縦にしてそのまま手を捻らないで握る。
 まずはそのグリップで打ち返してみて。」

「え?」

 私とは反対側のコートに入って構えた彼はサーブを打とうとしている。
 私は慌てて言われたことをやってみた。

 ガットはラケットに張ってあるネットだ。

 えっとガットが見えないように縦に。
 それでこのまま握るの?

 構えると彼は何度かボールを地面に打ちつけた後に上へトスを投げ、打ち込んできた。

「ちょ………。」

 鞭がしなった様な音と風を切る音がした。
 すごいスピードで打ち抜かれたボールに体は石のようにコートに張り付いたまま動けなかった。

 彼は悪びれる様子もなく涼しい顔でまだ続ける姿勢を崩さない。

 再び地面にボールを何度か打ち付けてから再びトス。
 今度は先程よりは緩めに飛んできたボールに体は自然と反応する。

 グリップに違和感はあるものの、打ち返すとボールは綺麗にコートにおさまった。

 それを彼が打ち返す。




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