恋のコーチは期間限定
 誘われて……というより半ば強引にサークルに連れて来られた。
 近くの女子大生の奴らが数多く在籍するテニスサークルでは見世物のようであまりいい気分ではない。

「あ、蒼葉くんが今日はいるよ〜。」

「本当だ。高坂くんがいるなんて貴重。」

 ひそひそ話している声が本人に聞こえているなんて微塵も思わないのだろうか。

 話したこともないような奴の名前なんて覚えてもないし、ましてや『蒼葉くん』なんて呼ばれる筋合いもない。

 蒼葉くんなんて……そこまで思って美希さんがなかなか呼んでくれなかったことを思い出すと笑みをこぼした。

「あんまそのとろける顔で笑ってると勘違いされるぞ。」

 海斗の指摘に、気づけばさっきより視線が痛い。

「だから嫌なんだよ。こんなとこ来るの。」

「たまにはテニスしないと体が鈍るだろ。
 コーチったって教える方じゃテニスやってるって感じでもないんだろ?」

「まぁ……だからってここでテニスする方が嫌だ。」

 ギャラリーが見つめる中でキャーキャー言われてやるのなんてまっぴらだ。

「お前のお陰で女の子が増えたって副長が喜んでたぞ。」

 俺は客寄せパンダか。




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