幼なじみに襲われて
「はぁー…」

学生や社会人にとって月曜日というのは、悪魔の曜日だ。
ほとんどの人が憂鬱な気分で家を出る。かくゆう私もその一人だ。まぁ、いつもはそこまで憂鬱にはならないが、今日は格段に体が重い。
外に出るのも細心の注意をはらわなければいけない。それというのも家の前に優のファンがいるかも知れないからだ。隣に住んでいる私は知っている。何回かそういう現場に出くわしたからだ。そのため、家から学校まで徒歩10分というのに、7時に家を出るはめになった。
この時間なら出待ちの子達もいないだろうと考えたからだ。
思った通り誰もいなくて、しんっとしていた。
このまま家に帰りたくなったが、そこをなんとか抑えて学校に向かった。


「あれ、東城。今日はやけに早いな」

そう声をかけてきたのは、現役モデルの橘奏汰先輩だ。
優と同様この学校の王子様で、ファンクラブもある。
モデルらしく身長180㎝超えの細身のスタイルでクリーム色のふわふわな髪。慧にぃ同様にタレ目。何より父親がイギリス人でハーフ。顔もスタイルも日本人離れしていた。
そんな彼が何故私なんかに話しかけるのかというと、

「社長、朝比奈の両親と旅行なんだってな。家、一人で大丈夫か?」

奏汰先輩はお父さんの事務所のモデルだ。だから、家にもよく来るし、こちらも家族ぐるみの付き合いだ。

「はぁ…まぁ、もう高2なので大丈夫です。」

いくら奏汰先輩だって、優の家にお邪魔してますなんて言えない。

「それより、奏汰先輩こんな時間に学校で何してるんですか?」

先輩は妙に勘がいいから余計なことを聞かれないうちに話題を変えた。
時刻はまだ7時半前。玄関に来る途中、グラウンドには野球部やサッカー部が朝練をしていた。体育館からはバスケ部やバレー部の声も聞こえる。
でも、先輩は確か部活には入ってなかったはずだ。
そんな暇もないくらいモデル業が忙しいというのもあるし、最近はドラマにも出てる。

「それは東城にも言えるけど…。俺は、最近学校に来れてなかったから、その分の勉強をしに。卒業できないと困るしな。お前は?」


「私は…」

え、なんて言えばいいんだ…。優のファン達に見つかりたくなくて早く出てきました。なんて口が裂けても言えないし…。

「朝比奈になんかされた?」

「えっ!!?な、ななななんかって何ですか!」

「うーん…別々で寝てたはずなのに、起きたら隣で寝てたとか?あ、お風呂から上がって着替えてたら勝手に入ってきたとか?」

昨日と今朝の記憶が鮮明に蘇ってきて、顔がゆでダコみたいに赤くなっていく。

「…当たりか。じゃぁ、社長が言ってた通り朝比奈の家にいるんだな」

「えっ!お父さん、先輩に話したんですか!?」

目の前の先輩は涼しい顔で頷く。
なんてことだ…。先輩に限ってべらべら喋ったりはしないだろうけど…。

「誰にも言わないでくださいね…。アイツのファン達に知られたくないんで…」

「もちろん誰にも言わないよ。本当は俺の家に泊めさせてくれって言われてたんだけど…」

苦笑いしながら、初耳なことを聞かされた。
何でも、お父さんは最初は先輩の家にと頼んだみたいで先輩も先輩のご両親もウェルカムだったけど、よくよく考えたら、先輩は現役モデル。人気もうなぎ登りで家まで来るファンも少なくないし、マスコミもいる。で、お隣の優の家になった。そこで男女二人きりになるってことは考えなかったみたいだ。

そんな話をしていたら、自分の教室まで来ていた。

「じゃ、何かあったら遠慮せずに僕の家に来ていいからね」

周りに人がいるってわかったのか口調がさっきよりも優しく、『俺』から『僕』になってる…。さすが芸能人。

「い、行きません!て言うか、ち、近いですっ」

上から覗きこまれて、綺麗な顔が近づいてくる。
周りから女子の悲鳴が聞こえてくる。私も悲鳴をあげたいくらいだ。

「 」

「「きゃぁぁぁーーーーッ!!??」」

大勢の女子達の悲鳴を聞きながら、腰を抜かした私はその場に座り込んだ。
今にも殴りかかってきそうな猛獣たちを尻目に去り際につけられた赤い首筋に手をあてて、囁かれた言葉にまた顔が赤くなった。



『首筋、綺麗についたね。今度はどこにつけようか』



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