すべては、
「書留です。サインか印鑑をお願いします。」



ドアを開けた私は彼を見て涙が込み上げてくる。


「今印鑑を持ってきます。玄関の中に入って待ってて下さい。」


家に招き入れ、ドアが閉まったと同時に彼に抱きついた。


「すみません。少しこのままでいさせて下さい。」


「………」


暖かい大きな手が髪を撫でるのを感じ、徐々に気持ちが落ち着いていく。





どのくらいそうしていたのか…

私から離れるのを待って、東さんは帰って行った。





ドアを閉めて一人になると、余計東さんのいないことに寂しさが込み上げてくる。

今まで包まれていた温もりが恋しい。

寄りかかり溜め息を吐くと、またチャイムが鳴った。


「東さん?」


後悔した。

インターフォンで確認してからドアを開けなかったことを。





「こんにちは、実里さん。」





全身から嫌な汗が吹き出してくる。


「木下さん…」


「さっき来ていた郵便配達員、すれ違った時…」


伸ばされた手に、固まった体は避けることが出来ないでいた。


頬に触れる手に身の毛がよだつ。


「君の香りがしたのはなぜかな?」


満面の笑みが凶器に変わる。


その鋭い刃の切っ先が私の心につき立てられ、鼓動が否応なく早くなっていく。




助けて…

助けて東さん…




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