すべては、
新聞を取り上げ、座っていたイスから無理矢理剥がすと鞄と共に玄関へと追いやった。


「そうだ。」と靴べらで靴を履いていた旦那が何か思い出したように振り返る。



「今夜後輩連れてくるから、適当に夕食作っといて。」



はぁー!今夜!?



「そう言うことは早めに言ってよね!それに人連れてくるのに適当にとか作れないから!一応、嫁としての品格がー」


「ごめんごめん。今度からは早めに言うから。」



はい。と靴べらを渡してくる顔はにこにこと笑顔で…


謝っておきながら笑顔なのは絶対に口だけで、また同じようなことがこれからもあるということを、今までの経験から知っている。


「そう怒らないで。」


口を尖らせる私に急に近づいた旦那が触れるだけのキスをした。


「ちょっと!」


「行きたくもない会社に行くんだから、これくらいのご褒美があってもいいだろ?じゃ、行ってきます。」


逃げるように家を出ていく旦那を追いかけて一発殴ってやりたいが、ご近所さんにそんな所見られるわけにもいかず…


今はぐっと我慢し、その怒りを料理にぶつけることに決めた。

「てか、今夜って何よ!今夜って!私にも色々準備ってものがあるんですからね!」

直接言ってやりたい本人が出て行った玄関に、向かって言ったところで、虚しいだけと分かっていながら言わずにはいられない。



部屋の掃除とか、食料の買い出しとか!

でも、朝に言われてまだ良いか…

帰って来て、突然連れて来たとか言われるよりは…

心の準備もあるし。

取り敢えず、まずは掃除しよ。




「よし!頑張るぞ!」




くるりと回り玄関に背を向けると、耳につけた大きめのイヤリングが揺れた。


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