すべては、
あの時…

仕事だから我慢した。だけど、それだけじゃない。
それだけだったら、途中で心が折れていたと思う。

あの時頑張れたのは、先輩の役に立ちたくて…
先輩に早く認められたくて、頑張ったのに…



「私だって、好きでそうなったわけじゃ…」



「………悪い…」



いつもの強気な物言いではなく、どこか悲しげな先輩の声に顔を上げれば、そこには困ったような戸惑いを滲ませた先輩の顔があった。



「お前はこの仕事、誰よりも頑張ってた。
それを近くで見ていたのに…酷いことを言った。」


「先輩…」


「実里、よく頑張ったな。」


そう言ってくれた先輩は、今までの先輩からは想像も出来ない優しい微笑みを浮かべていた。


そして、「お疲れ様」と額に落とされる唇。




これって…/////




先輩ずるいです。でこチューするなんて…



沈んでいた気持ちも今や天に昇る程軽い。



今にもとろけちゃいそうです!

先輩…



「先輩…チューしてくれるなら口が良いです。」



「調子に乗るなよバイト。落とすぞ。」



先輩のまとっていた甘い空気が一気に淀んで目に見えて機嫌が悪くなる。



それでも先輩は焦って謝る私を抱え、車へと向かった。













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