腹黒上司が実は激甘だった件について。
帰りがけにスーパーに寄って少し食材を買った。
坪内さんちの冷蔵庫はスッカスカだ。
外食が多いんだろうなと思わせる。

先に帰ったって他人の家ではやることがない。
せいぜいテレビを見るくらいだ。

だったら夕飯でも作って待ってやろうじゃないか。
私だって就職をしてからずっと一人暮らしをしている。
元彼と付き合っている時は結婚も視野に入れていて、少しだけ料理教室にも通った。
その経験が今活かされようとは、皮肉なもんだ。

だいたい、坪内さんもカップ麺とかレトルトとか、そんなのばっかじゃダメだ。
お昼だって外食ばかりなのに、あの人の食生活ヤバいんじゃなかろうか。

朝はえらく感動してくれていたことを思い出す。
そうだ、朝の感動を超えるくらい、美味しいってうならせてやろう。
そして帰ってきたら、めちゃくちゃ文句を言ってやるんだ。


インターホンがピンポーンと鳴る。
モニターを見ると坪内さんが映っている。

バタバタと玄関を開けると、

「ただいま」

と言う言葉と笑顔が降ってくる。

あんなに文句を言ってやろうと意気込んでいたのに、私は、

「おかえりなさい」

としか言えなかった。
< 35 / 89 >

この作品をシェア

pagetop