腹黒上司が実は激甘だった件について。
リビングのソファーに転がりながらスマホをチェックすると、奈穂子からメッセージが届いていた。

【大丈夫?ちゃんと暮らせてる?】

そういえば会社のエントランスで別れてから連絡していなかった。
どうなったか教えてよねというメッセージも、既読スルーしていた。
ごめん、奈穂子。
いろいろありすぎて返信するの忘れていたよ。

【坪内さんの家にいる】

と、簡潔にメッセージを送ると、すぐに返事があった。

【今度飲みに行くわよ】

これは、飲みの席で根掘り葉掘り聞かれるパターンだ。
私は苦笑いしてスマホを閉じた。

坪内さんの好意に甘えっぱなしでいるけど、今度の土日は家探しをしないと。
早く新しい家を見つけないと前に進めない。
家財道具をいつまでもあの焦げ臭い臭いの中に置いておきたくないし。
こんな、あったかくて優しい場所にまどろんでいたら、ダメ人間になってしまうよ。

そんなことを考えているうちに、いつの間にか寝てしまったらしい。

「秋山?」

坪内さんの声がした気がしたけど、まぶたが重くて上がらない。

眠りの縁で、毛布を掛けられる感覚がある。
あったかくて気持ちよくて、覚醒しそうになる意識がまたすっと消えていった。

髪を撫でられ頬を撫でられ、

「早く俺のものになれよ」

そんな呟きが耳をかすめていった。
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