夏の空が笑ってる。
わたしは先ほど座っていた椅子に腰掛け、練習を再開した。
渡り廊下をすり抜けていく秋風。
わたしはこの場所が好きだ。
グランドから聞こえる運動部員の声、たまにキャッキャと話しながら通る生徒達。
見上げると、果てしなく遠い澄みきった空。
空気も綺麗で、ずっとここにいたくなる。
「美月、さっきのやつ、なんか失礼な事言ってなかった?」
少し休憩してふたりで水を飲んでいると、口に含んでいる水をゴクンと飲み干し陽菜先輩が聞いてきた。
「んー、大丈夫ですよ!・・・先輩さっきの方知ってるんですか?」
わたしの楽器、クラリネットのことをラッパとか言ってきたのはちょっとイラッとしたけど、そんなこと音楽をしてないと分からないことで、言ったところでどうしようもない。
それより、陽菜先輩がさっきの人のことを知っているなら、ちょっとだけ、わたしもあの人のことを知りたいと思った。
今思えば、あの笑顔を見た時から、わたしはあなたに惹かれていたのかもしれない。