古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
「あ、そうだ!」
ふいに奏輔さんが席を立って奥に入って行った。
短期バイトとはいえ、一応雇用契約書みたいなものを書くのかな、と思って待っていると、戻ってきた奏輔さんの手にはガラス製の器を二つ載せたトレーがあった。
「はい。これ。良かったらどうぞ」
奏輔さんがコトン、と私の前のテーブルにそれを置くと透明の葉っぱの形をした可愛い器の上で、半円形をした抹茶色のかたまりが、ふるんと揺れた。
「これって……」
「そう。うちの店の看板メニューの一つ。抹茶の葛プリン」
確かに、今日みえたお客様の間でもかなりの人気メニューで三組に一人はオーダーする人がいた気がする。
見ためも艶やかで涼しげで、運びながらも気になっていたメニューの一つだ。
「良かったら食べてみて」
「え、いいんですか?」
「良くなかったら出さへんけど」
「そ、そうですよね。では遠慮なくいただきます」
「お口に合うか分かりませんが……とか俺は言わへんで。絶対うまい、はず!」
きっぱりと言い切られて私は苦笑しながらスプーンをとった。
スプーンを入れようとして、意外なほどの弾力に少し驚いた。
見た目と名前からそれこそ「プリン」のような柔らかさを予想していたから。
ひと匙すくって口に入れてみる。
その瞬間、ふわっと抹茶の香りが口のなかに広がった。
「美味しい~」
思わず、ため息のような感嘆の声が洩れる。
「な、な、そやろ?」
奏輔さんは得意げに言うと満足そうに自分もスプーンをとり上げた。そこで初めて、彼が私が一口目を口に入れるのを固唾をのむようにしてじっと見守っていたことに気がついた。
「お世辞やったらいらんし」
「お世辞じゃないですよー。本当に美味しい。これ、なんでこんなに抹茶の香りがするんですか?」
「企業秘密や」
奏輔さんは、ふふんと笑った。本当に子供みたい。
私たちは向かい合って、そのプリンを食べた。
葛プリンっていうからには葛粉が入ってるんだろうけど、基本的に卵と砂糖と牛乳で作る(で合ってるよね?)プリンにどうやって、抹茶や葛粉を混ぜてるんだろう。
プレーンな普通のプリンすら、中学校の調理実習か何かで作って以来作ろうとしたことすらない私にはまったく未知の領域である。
ただ、ものすごく滑らかでぷるんぷるんで美味しい! ということだけはよーく分かったけど。
臨時のバイトとしてはそれが分かってれば十分だよね。
ふいに奏輔さんが席を立って奥に入って行った。
短期バイトとはいえ、一応雇用契約書みたいなものを書くのかな、と思って待っていると、戻ってきた奏輔さんの手にはガラス製の器を二つ載せたトレーがあった。
「はい。これ。良かったらどうぞ」
奏輔さんがコトン、と私の前のテーブルにそれを置くと透明の葉っぱの形をした可愛い器の上で、半円形をした抹茶色のかたまりが、ふるんと揺れた。
「これって……」
「そう。うちの店の看板メニューの一つ。抹茶の葛プリン」
確かに、今日みえたお客様の間でもかなりの人気メニューで三組に一人はオーダーする人がいた気がする。
見ためも艶やかで涼しげで、運びながらも気になっていたメニューの一つだ。
「良かったら食べてみて」
「え、いいんですか?」
「良くなかったら出さへんけど」
「そ、そうですよね。では遠慮なくいただきます」
「お口に合うか分かりませんが……とか俺は言わへんで。絶対うまい、はず!」
きっぱりと言い切られて私は苦笑しながらスプーンをとった。
スプーンを入れようとして、意外なほどの弾力に少し驚いた。
見た目と名前からそれこそ「プリン」のような柔らかさを予想していたから。
ひと匙すくって口に入れてみる。
その瞬間、ふわっと抹茶の香りが口のなかに広がった。
「美味しい~」
思わず、ため息のような感嘆の声が洩れる。
「な、な、そやろ?」
奏輔さんは得意げに言うと満足そうに自分もスプーンをとり上げた。そこで初めて、彼が私が一口目を口に入れるのを固唾をのむようにしてじっと見守っていたことに気がついた。
「お世辞やったらいらんし」
「お世辞じゃないですよー。本当に美味しい。これ、なんでこんなに抹茶の香りがするんですか?」
「企業秘密や」
奏輔さんは、ふふんと笑った。本当に子供みたい。
私たちは向かい合って、そのプリンを食べた。
葛プリンっていうからには葛粉が入ってるんだろうけど、基本的に卵と砂糖と牛乳で作る(で合ってるよね?)プリンにどうやって、抹茶や葛粉を混ぜてるんだろう。
プレーンな普通のプリンすら、中学校の調理実習か何かで作って以来作ろうとしたことすらない私にはまったく未知の領域である。
ただ、ものすごく滑らかでぷるんぷるんで美味しい! ということだけはよーく分かったけど。
臨時のバイトとしてはそれが分かってれば十分だよね。