古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
抹茶の香りとつるんとした舌触り、そして優しくて上品な甘みが仕事の疲れを癒してくれるみたい。
「あー、幸せ」
思わず呟くと、奏輔さんがおかしそうに笑ったので私は赤くなった。
「な、なんで笑うんですか」
「いやあ、なんやプリンひとつで幸せ~って大袈裟な人やなあって」
「大袈裟なんかじゃないですよ。本当に美味しいですもん。なんか、私、今このプリン食べてたら、美味しいものを美味しい~って思って食べられるのってすごい幸せなことだなあってなんかつくづく思っちゃって」
「まあ、それはそやな。人間、飯食って美味いと思えるうちが花や。飯が美味いと思えんようになったらしまいやな、ってじいちゃんもよく言うとったわ」
「お祖父さん、ですか?」
「ああ。祖父ちゃん兼俺の師匠」
「師匠?」
「和菓子の師匠。ここ元は祖父ちゃんの店やってん。『紫陽花堂』っていう和菓子屋。特に大福と羊羹はちょっと有名で、遠くから買いに来てくれるお客さんも仰山おったんやで」
羊羹……という言葉に促されるようにして一つの記憶が蘇ってきた。
「栗蒸し羊羹……」
「え?」
「その、お祖父さんのお店って栗蒸し羊羹って置いてありましたか?」
「ああ。置いてたけど」
「小さい頃、祖母のうちに遊びに来るとよく出してくれてたんです。大きな黄色い栗がいっぱい入った栗の羊羹。私、それが大好きで、祖母の家に遊びに行って、それを出して貰うといつも嬉しくて……」
奏輔さんは嬉しそうに目を細めた。
「ああ。千鳥さんは祖父ちゃんの店のお得意さんだったんよ。お茶席に使う和菓子とかもよく注文してくれとった」
「そうだったんですね」
あの懐かしい栗蒸し羊羹を作ってくれていた人のお孫さんのお店で自分が今、バイトをすることになったなんて、なんだかすごく不思議な気持ちだった。
それは奏輔さんも同じだったらしく、
「そうかー。悠花さんは祖父ちゃんの栗蒸し羊羹食べとってくれたんやなー」
と感慨深げに呟いている。
「うちの店でも秋になったら栗蒸し羊羹メニューに出すからさ。是非、食べてみてよ」
「わ、本当ですか。嬉しい」
「祖父ちゃんの味を知っとる人に俺の羊羹がどれくらい先代に近づけとるか見極めて貰うチャンスやな」
「えっ」
そんなことを言われると味覚にも記憶力にもあまり自信がないので不安になってしまう。
ただ、「栗がほくほくして美味しかった」っていうことくらいしか覚えていないし。
そんな私の心配には気づかない奏輔さんは、最後の一口のプリンを平らげて嬉しそうに言った。
「とりあえず今日は祖父ちゃんの仏壇に報告しとくわ。祖父ちゃん羊羹のファンだった女の子が俺の店手伝ってくれることになったんやでーって。喜ぶと思うわ」
そうか……。お祖父さんの和菓子屋さんのあった場所で今、奏輔さんがこのお店をやっているっていうことは、ひょっとしたらそうなのかな、とは思っていたけどお祖父さんはもうお亡くなりになっていたみたいだ。
ご愁傷さまです、なんてお祖父さんと面識もないのにいきなり言うのも失礼な気がして私は黙って頭を下げた。
「あの、本当に美味しくて、秋に祖母の家に来るのがいつも楽しみだったって、そうお伝え下さい」
「うん。ありがとう」
「あー、幸せ」
思わず呟くと、奏輔さんがおかしそうに笑ったので私は赤くなった。
「な、なんで笑うんですか」
「いやあ、なんやプリンひとつで幸せ~って大袈裟な人やなあって」
「大袈裟なんかじゃないですよ。本当に美味しいですもん。なんか、私、今このプリン食べてたら、美味しいものを美味しい~って思って食べられるのってすごい幸せなことだなあってなんかつくづく思っちゃって」
「まあ、それはそやな。人間、飯食って美味いと思えるうちが花や。飯が美味いと思えんようになったらしまいやな、ってじいちゃんもよく言うとったわ」
「お祖父さん、ですか?」
「ああ。祖父ちゃん兼俺の師匠」
「師匠?」
「和菓子の師匠。ここ元は祖父ちゃんの店やってん。『紫陽花堂』っていう和菓子屋。特に大福と羊羹はちょっと有名で、遠くから買いに来てくれるお客さんも仰山おったんやで」
羊羹……という言葉に促されるようにして一つの記憶が蘇ってきた。
「栗蒸し羊羹……」
「え?」
「その、お祖父さんのお店って栗蒸し羊羹って置いてありましたか?」
「ああ。置いてたけど」
「小さい頃、祖母のうちに遊びに来るとよく出してくれてたんです。大きな黄色い栗がいっぱい入った栗の羊羹。私、それが大好きで、祖母の家に遊びに行って、それを出して貰うといつも嬉しくて……」
奏輔さんは嬉しそうに目を細めた。
「ああ。千鳥さんは祖父ちゃんの店のお得意さんだったんよ。お茶席に使う和菓子とかもよく注文してくれとった」
「そうだったんですね」
あの懐かしい栗蒸し羊羹を作ってくれていた人のお孫さんのお店で自分が今、バイトをすることになったなんて、なんだかすごく不思議な気持ちだった。
それは奏輔さんも同じだったらしく、
「そうかー。悠花さんは祖父ちゃんの栗蒸し羊羹食べとってくれたんやなー」
と感慨深げに呟いている。
「うちの店でも秋になったら栗蒸し羊羹メニューに出すからさ。是非、食べてみてよ」
「わ、本当ですか。嬉しい」
「祖父ちゃんの味を知っとる人に俺の羊羹がどれくらい先代に近づけとるか見極めて貰うチャンスやな」
「えっ」
そんなことを言われると味覚にも記憶力にもあまり自信がないので不安になってしまう。
ただ、「栗がほくほくして美味しかった」っていうことくらいしか覚えていないし。
そんな私の心配には気づかない奏輔さんは、最後の一口のプリンを平らげて嬉しそうに言った。
「とりあえず今日は祖父ちゃんの仏壇に報告しとくわ。祖父ちゃん羊羹のファンだった女の子が俺の店手伝ってくれることになったんやでーって。喜ぶと思うわ」
そうか……。お祖父さんの和菓子屋さんのあった場所で今、奏輔さんがこのお店をやっているっていうことは、ひょっとしたらそうなのかな、とは思っていたけどお祖父さんはもうお亡くなりになっていたみたいだ。
ご愁傷さまです、なんてお祖父さんと面識もないのにいきなり言うのも失礼な気がして私は黙って頭を下げた。
「あの、本当に美味しくて、秋に祖母の家に来るのがいつも楽しみだったって、そうお伝え下さい」
「うん。ありがとう」