古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
「そらそうやけど、たかが家まで送ってくくらいのことでそんな肩肘突っ張らんかてええやんか」
「別に肩肘なんか張ってません」

「俺、別に悠花さんの家の場所知ったからって、ストーカーに変貌したりせえへんよ」
「そんな心配してません!」

ついむきになって言い返してすぐに、そんな自分が恥ずかしくなる。
奏輔さんはそれ以上反論せずに、ちょっと笑って言った。

「別に俺が男だからとかそんなん今は関係ないやん。俺は雇用主で悠花さんは従業員。従業員の安全を確保するんは雇用主のつとめやろ」
「そう、かもしれませんね」

「悠花さんが女だからって男に頼るんみたいなのが嫌いだっていうのはよく分かったけど、部下が困った時に上司に頼るんは普通やろ?」

その言葉を聞いた途端、ふいにツンと鼻の奥が痛んだ。
目頭に熱いものがこみ上げてくる。

(あ、いけない……)

と思った時には大粒の涙がぽろっと零れでていた。

「えっ」

案の定、奏輔さんがものすごく驚いた顔でこちらを見ている。
慌てて巾着からハンカチを取り出そうとするが、動揺しているせいかうまく紐がほどけない。
そうこうしているうちに、次々と溢れた涙が頬を伝ってもうどうにも誤魔化しきれない状態になってしまった。

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