古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
中の準備を終えて、店の前のスペースを箒で掃いていると、その横で入口のドアを拭いてくれていた佐保ちゃんがふいに声をあげた。
「奈っちゃん……!」
見ると、水色のカットソーに白のスカートを着たちょうど佐保ちゃんくらいの年頃の女の子が店の前を通りかかるところだった。
その子は、佐保ちゃんを見るとはっとしたような顔をして、そのまま走っていってしまった。
佐保ちゃんはその後ろ姿を黙って見送っていた。
「同じ、学校の子?」
おずおずと訊ねると、佐保ちゃんは困ったような顔をして首を振った。
「ううん。小学校のとき、一緒の塾に通っててん」
「そっか……」
見るからにワケありげな様子だったけど、それ以上聞くのも無神経な気がして私は黙って箒を動かした。
(まあ、この年頃の女の子同士って色々あるよね)
開店時間がやって来て、このあと塾があるという佐保は帰って行った。
「あじさい堂」では基本ランチタイムは設けていない。それはメニューのほとんどが食事というより「おやつ・お菓子」に類するものだからなのだけれど。
きなこのパンケーキや、黒蜜フレンチトーストなど、ややボリュームのあるメニューも置いてあるのでお昼時はそれなりに賑わう。
その日もかなりお店は繁盛していた。
「やっぱり早く新しいバイトの人に入って貰いましょうよ」
四時を過ぎ、客足が途切れたときにお皿を洗いながら私は奏輔さんに言った。
「悠花ちゃん、そればっかやな。そんなに早くうちを辞めたいんか」
「そうじゃないですけど。私がここで働くのはいいんですけど、それはそれとしてもう一人くらい人手が欲しいなっていう話ですよ。今でもういっぱい、いっぱいなんだから。これでこれから秋の観光シーズンになったらまわりませんよ、絶対」
「奈っちゃん……!」
見ると、水色のカットソーに白のスカートを着たちょうど佐保ちゃんくらいの年頃の女の子が店の前を通りかかるところだった。
その子は、佐保ちゃんを見るとはっとしたような顔をして、そのまま走っていってしまった。
佐保ちゃんはその後ろ姿を黙って見送っていた。
「同じ、学校の子?」
おずおずと訊ねると、佐保ちゃんは困ったような顔をして首を振った。
「ううん。小学校のとき、一緒の塾に通っててん」
「そっか……」
見るからにワケありげな様子だったけど、それ以上聞くのも無神経な気がして私は黙って箒を動かした。
(まあ、この年頃の女の子同士って色々あるよね)
開店時間がやって来て、このあと塾があるという佐保は帰って行った。
「あじさい堂」では基本ランチタイムは設けていない。それはメニューのほとんどが食事というより「おやつ・お菓子」に類するものだからなのだけれど。
きなこのパンケーキや、黒蜜フレンチトーストなど、ややボリュームのあるメニューも置いてあるのでお昼時はそれなりに賑わう。
その日もかなりお店は繁盛していた。
「やっぱり早く新しいバイトの人に入って貰いましょうよ」
四時を過ぎ、客足が途切れたときにお皿を洗いながら私は奏輔さんに言った。
「悠花ちゃん、そればっかやな。そんなに早くうちを辞めたいんか」
「そうじゃないですけど。私がここで働くのはいいんですけど、それはそれとしてもう一人くらい人手が欲しいなっていう話ですよ。今でもういっぱい、いっぱいなんだから。これでこれから秋の観光シーズンになったらまわりませんよ、絶対」