古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
予想していたことだったけれど、母は私の顔を見るなり挨拶もそこそこにまくしたてた。

「だから言うたやないの。大学を出たらこっちに帰ってきて就職しなさいって。百貨店ならこっちにだって仰山あるんやから。それを勝手にむこうで就職決めてしまって、今になってまた勝手にやめて帰ってくるなんて。そんな中途半端な年齢でいったいどないするつもりなの!!」

「いや、それをちょっと考えようかと思っていったんここに帰ってきたわけなんやけど……」

実家に帰ると、たちまち語尾にこちらの響きが戻ってきてしまうのはいつものことだった。

「考えてる暇なんてないわ! あんたいったい自分が幾つやとおもてるの?」
「……二十七歳」

「ほら、みてみい! ぼけ~っとしとったらあっという間に三十や。結婚せん仕事もないてどないするのっ」

「お義母さんったら。今は三十過ぎて結婚するのなんてむしろ当たり前なんやから」

弟の奥さん──つまり私の義妹にあたる沙代里ちゃんが遠慮がちに割って入ってくれる。

けれど二十五歳にしてすでに二歳の女の子を抱いている状態では申し訳ないけどいまいち説得力がなかった。

案の定、母はますます勢いづいた。

「サヨちゃんをみてみ。あんたより二つも年下なのにもう立派な一家の主婦で、奈江ちゃんのママなんやで。それに比べてあんたときたらいつまで学生気分でおるんよ」

「学生気分でなんかおらん」
さすがにむっとして反論する。

「親に何の相談もなく五年もつとめた職場急に辞めて、帰る三日前になって電話一本で知らせてくるようなん、とっても立派な社会人とは思えんわ」

そう言われてしまうと何も言い返せない。







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