ねぇ、泣かないでよ。
「陽、お前のせいでビリになったら。強制的に俺と付き合え」
これは、きっと。颯汰くんだから許される言葉であって。
キュンともスンともしないよ。
つか、出づらい。
「って、ごめん、ごめん。ジョーダン。」
颯汰くんの軽い笑い声が響く。
しゅんっと胸から何かが抜けるような感覚がした。
マイクを返した颯汰くんは人が群がるこちらの方に走ってくる。
「颯汰くんったらー!さすが冷血王子!さぁ!そんな王子のお姫様はどこいったんですかね!」
冷血?王子?そうなの?
アナウンスで知らされるもうひとつのこと。
今まで自分が馬鹿にされていることに気を使いすぎて、周りが見えてなかった。
本当は颯汰くんのことも愛美達から聞いていたかもしれない。
「みっけ」
人混みをかけわけて目の前に来た颯汰くん。
少し汗ばんだ手で私の腕をとる彼は、昔かくれんぼした時のように無邪気にみえた。
「ゴールまで全力疾走な!」
ただ、あの時とは違う。
身も心も変わった私に全て合わせてくれた。
成長した心で優しさを感じることができる。
「はぁ、はぁあ。っくそぉー」
「はぁ、はぁ、はぁ速いね」
「3位って、速いのか?」
「颯汰くん、いっつも1位だったよね」
「陽が出てきてくれないから」
「見つけてくれないと」
「ま。見つけられたから、いっか」
芝生の地面に仰向けに寝転がった颯汰くんは、お題の書かれた紙を私に渡した。
「はい」
「これ、」
「『一番好きな友達』だった」
「、、、へー」
何のお題でも、私を走らせたかったんだもんね。
そうやって
「逃げないでよ」
「ぇ」
「俺、陽とまだ一緒にいたい」
「、、、私、戻るね」
「今日、一緒に帰ろ」
「っへ?」
「送るから。」
「、、。ごめん、聞こえなかった」
戻ろうとする私の手を握り止めた。
「もう1回だけ言うから。よく聞いて」
寝そべっていた体を起こしたからなのか、芝生が髪の毛に少しついていた。
「陽、今日は一緒に帰ろ」
そんなこと、初めて言われた。
「校門で待ち合わせね」
何も言わずに握られたてを振りほどく。
「楽しみにしてるねー!!」
颯汰くんの声がグランドに響く。
恥ずかしい。
注目されるのが嫌いな私にとっては苦痛でしかない。