ねぇ、泣かないでよ。
初めて聞く話
カランカランと音をたてて疲れを溜めた男の人が入ってくる。
夜8時からの祖母の店は、残業したサラリーマンや、たまに祖母の魅力にハマった大学生も来る。
「あれ?陽ちゃん、今日元気なくない?」
「そうですか?」
「そうだよぉ、いっつもはぁもっと愛想いいのにぃ!」
「ぇへへ?おじさんに愛想よくした覚えないですけど?」
「うぅうー!いいねぇ!!そーゆーの好きだぁよっ」
「うるさい」
終始笑顔の接客は祖母が忙しいと言う時にしかしない。
殆どが掃除や食べ物を出したり作ったり。
お客さんと話すのは苦ではないが、苦手な人もいる。
そこをまんまとこなす祖母は、さすがだと思う。
「あんた、何かあったのかい?」
「何かって?」
祖母は、カンもいい。
「男か。」
「違うよ」
「お母さんも、あんたくらいの時に、親父に出会ってねぇ。そのまま恋愛結婚。」
「、、へぇ」
「ただねぇ。私のせいで男の人には免疫なくて、たった1回の浮気も許せない弱い女になっちまったよ」
「ここにいたら、免疫つきそうだけど」
「つくわけないだろう?そりゃ、男はいっぱい来るけど、マトモな人間は滅多にこない。」
マトモなんだろうけど、祖母の言うマトモな人はいないかもしれない。
「親父さんの浮気つっても、キャバクラに行っただけなんだけどねぇ」
「キャバクラ、、」
「もう、あんたもいい歳だから言うけど。お母さんは私に似て一途でねぇ、親父さんが最初で最高のやつだったんよ」
高校時代に出会ったふたりは付き合ってそのまま結婚という。
お父さんはお母さんにとって初めての彼氏で、初めての旦那さんだったらしい。
「お母さんにも、これからのあんたにも必要な事を言うからよくお聞き。」
「ん。」
「安い男の好きは信用ならん。けど!、、本当に自分を愛してくれる人の好きは心から信じること」
「、、、わかっ、た。」
「はぁ、お母さんにはもっと強く教えとくべきだったよ。」
祖母から、お母さんの話を聞くのは初めて。両親の馴れ初めも初めてだった。
少し。今までの感情が考え直される。