ねぇ、泣かないでよ。
母と娘と祖母と
颯汰くんに見られた嘘のキス。
大勢の前で奪われたファーストキス。
颯汰くんが作った大きな穴を和くんが地味に広げてくる。
すごく、嫌だ。
帰り道、ひとりで唸りながら変人と化して歩く。
そして、さらに苦しめる。この人は。
「陽ちゃぁーん!」
麦わら帽子に日焼けした肌。季節とは真逆の容姿でお母さんが祖母の店にいた。
「お母さん。なんで」
「陽ちゃんにね、サプライズがあるの!」
「さ、ぷらい、ず?」
帰ってきたことに驚いているんだが。それ以上に何かあるのか。
「パパと再婚しましたぁ!」
「え、」
バンッと奥から大きな音がしてドカドカと足音が近づいた。
「あんた!!何考えてんだ!」
「お母さん!」
「いきなり会いに来た時思えば、、、娘置いて出てったのに。再婚だぁ?もっとマシな事話やがれ!」
「違うの!」
「違わないだろ!」
「雅人(まさと)さんと、やり直したのよ」
怒鳴る祖母。母親の再婚相手が父親と知って少しだけ落ち着いた。というか、驚いていた。
「実はね、グアムで再会して!これは運命なんだなぁって。話し合ってちゃんと式もしなおして結婚しましたっ」
「お父さんは?」
「今ね、転勤で北海道行くからお仕事中よ」
「転勤?」
「そう!陽ちゃんも来るでしょ?リニューアル家族として」
リニューアルって。
「行かない」
「え、、、陽ちゃん?なんて言ったの?」
「行かないって言った」
「っどぉーしてぇ」
「おばあちゃん家の方が学校も通いやすいし、駅も近いから大学も行きやすいかなって」
精一杯の気を使った言い訳だった。
「、、急すぎたのね。また、来るわね」
カランと悲しそうな音をたてた。
肩から背中を暖かい手で撫でられ、我慢してたモノが溢れ出た。
色々な事がかさばりすぎて、赤ちゃんみたいに大袈裟に泣いてしまった。
「はぁ、ったく。仕方ないねぇ」
力いっぱい抱きついた私を祖母は優しく受け止めてくれた。