ねぇ、泣かないでよ。
曇った感情のまま、ふたりで手を繋いでいた。
何も考える気力はこれっぽっちもない。
外に出ると、予報とは真逆の大雨だった。
「こんな時って、なんで雨ふんだろうね」
何で和くんはそんな嬉しそうにするのかな。
なんで、
なんで
「じゃあーね。陽ちゃん」
ひとりで帰るんだろうか。
折り畳み傘を鞄から出してひろげた和くんは、軽く手を振ってひとりで歩き出した。
後ろ姿を見て、どこかホッとした。
重たくなった体が、力の入っていた体が、一気に崩れた。
へなんっ。とその場にしゃがんでしまった。
「ダメだつったじゃん」
「へえ”っ」
ドスンと上から大きな物体が乗っかってきた。
「そ、颯汰くん」
「ばぁーか」
「っひゃ」
突然耳に感じた生暖かさ。
「帰ろっか」
やっと休まった心がまた別の異変を起こす。
大きな傘をひろげ、私を優しく見下ろした。
「あと3分」
「へ」
「最終下校。ほら、陽。行こ」
しっかりと言わない颯汰くんの言葉はやっぱり信用がなくて。
和くんがダメな理由が分かりそうで分からない
そんなモヤモヤした感情が苦かった。
「陽は、俺が守るから」
「え」
「和には汚させない」
傘にぶつかる雨がうるさく中に響く。
立ち止まり向かい合わせになった颯汰くんは親指で私の唇を拭った。
「これ以上はね。」
決して和くんのようには触れないが、とても近くで隣にいるようだった。