アダム・グレイルが死んだ朝
1.

何を持って人は自分を幸福だと感じるのだろう。

誰かと比べて、自分の方が恵まれていると感じたときだろうか。それとも誰かに褒められたときだろうか。
自分の思い通りに物事が運んだとき、欲しかったものを手に入れたとき、それが幸福だと感じるのだろうか。
そもそも幸福とは、どういうものなのだろう。
気持ちが高揚して、満たされた感覚に陥るのだろうか。
もしそうなら、私はまだそれを味わったことがない。

里子にそのことを話したら、あんたは理想が高いからだと言われた。充分恵まれているくせに、まだその上を求めるから満たされない。つまり性格の悪い女だと言われた。

だけど私は別に、自分の理想が高いなんて思わない。
全てが普通でいいと思っている。

生活するのに最低限の物があればいいし、美味しい物を毎日食べたいとも思わない。お金だって沢山は要らないし、綺麗な服を着られなくてもいい。
普通の人たちの中に普通に溶け込んで、普通の喜びは悲しみを感じながら生きていたい。

家族はいてもいなくてもどちらでもいい。
友達は少なくていい。
恋人は、優しい人がいい。
私に優しい人がいい。

これのどこに理想が高いと言われる要素があるだろう。
ただ普通であることを望むだけなのに。
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