アダム・グレイルが死んだ朝

里子の言葉に黙り込むと、テーブルの上に置いたスマホが光った。画面に浮き上がる電話番号を見て、私は素早く電源を切った。

「無駄だよ」

「え」

スマホを鞄に入れた私に、里子が自分のそれを見せた。
良く目立つピンク色のカバーがついた彼女のスマホの画面に、直後その名前が浮かぶ。

「あんたって友達いないからね。私以外」

最悪な気分で溜息を吐いた私の前で、里子はかかってきた電話に出て、この場所を伝えた。

「私、帰る」

「なんで?澪君迎えに来るってよ」

「一人で帰れるから」

「過保護なんでしょう。あの母親に似て」

「冗談やめて」

残りのパスタを急いで食べ終えると、財布から千円札を二枚出して立ち上がった。
里子がこれ以上引き止めることはない。

彼女は全部を知っている。
私の身に起きた全てを。
私を壊したあの男のことを。

「気をつけてね」と手を振った里子に頷いて、私は急いでファミレスを出た。
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