アダム・グレイルが死んだ朝
澪があの女に連れられて家に来たのは、私が十三歳になったばかりの頃。中学生になって最初の一年を終えようとする三月のことだった。
澪は私よりも三つ上の十六歳で、進学校として有名な高校の制服を着ていた。
その春、父は澪の母親と再婚をした。
私の母親である女性が死んでから十年が過ぎていた。
だからそれまでの父の苦労を思えば、再婚を喜ぶのが娘としての務めだと思った。だけど本心では、私はその女が好きではなかった。
国内だけでなく海外展開もするジュエリーブランドの社長を務めていた父は忙しい人で、あまり家に居ることはなかった。だから私の面倒は、父が雇った手伝いの女性がみてくれていた。だけど私が中学に上がると同時に、それまでの手伝いの女性は退職し、新しい人が雇われた。それが澪の母親である、神崎蓉子(カンザキ・ヨウコ)だった。
父よりも十歳以上若い彼女は、銀座のクラブでホステスをしていた時に父と知り合ったらしい。
その時は特別な感情が芽生えることはなかったらしいけど、父の秘書が彼女を我が家の手伝いに推薦したことで、二人は距離を縮めていった。
だけど父が本当は何を考えて神崎蓉子と再婚を決めたのかはわからない。何故なら、その再婚の一年後に父はこの世を去ったからだ。